サイバーパテント

コラム

第20回 会社設立20周年(PR)
 ~お手紙(ラブレター)~

 知財業界で「お手紙」といえば、特許など知的財産権侵害に対する「警告状」の類を意味する。あるいは、特許出願に対して特許庁から届く拒絶理由通知を意味することもあるが、こちらは「お」を付けず「手紙」と表現するケースが多い。立場によって表現は異なるかもしれないが、いずれにしても知財業界で「お手紙」は頂きたくないものである。

警告状とラブレターをどう区別するか

 お手紙が厄介なのは、警告状であれば訴訟を想定した対抗策の準備などが必要となるが、ラブレターと区別がつかないことがある。内容証明郵便で第三者から特許番号を添えられて手紙が送られてきたからといって、必ずしも敵意むき出しとは限らない。
 お手紙が届く前から、いわゆる水面下で交渉を重ねた後に届けば、潜在的問題が水面上に顕在化しただけでわかりやすい。もちろん、「警告状」とタイトルがあれば間違いはない。
 しかし、「警告」の記載がなく、前触れもなくお手紙が届いた場合はどうか。書簡の最後に法的措置をほのめかす表現があれば峻別できるが、稀に提携やМ&Aをもちかける意図の手紙がある。つまり、本物のラブレターのことがあるのだ。

1通のお手紙が届いた

 少し昔の話だが、2013年に提携関係にあった会社と共同でニュースリリースをしたところ、同業他社から弊社に一通の書留内容証明郵便物が届いた。代理人を介した送り主については、社名は知っていたが特許情報フェアなど業界イベントで挨拶する程度だった。
 このお手紙は代理人からで、かつ書留内容証明郵便物であり、一見すると警告状である。ただし、「警告」「法的措置」の文言がない。送り主の特許番号とニュースリリースとの共通点の記載があり「貴社におかれましては、本件特許権を侵害することがないように、お願いいたします。」と丁寧な語調で、前後の文脈からライセンス提供をほのめかしている。
 当時の親会社の知財担当と相談したが、警告なのか組みたいのかいずれかはっきりせず、経験豊富な弁護士と技術的な内容を吟味し、抵触していないことを確認の後、「特許発明の技術的範囲には属しないことを確認しました。」旨のそっけない「お返事」をした。

お返事の後に想定されること

 お手紙は同じ送り主から繰り返し送られてくることがある。お返事(回答)に対して反論や更なる主張が間髪を容れずにやってくる。一般的に、送り主は次のカードも用意している。最初のお手紙とお返事のやり取りが一段落すると、別の特許で次の一手がくることが多い。
 お手紙の受け手側の心得については、巷に情報が多数あるのでそちらを参照いただくとして、弊社の事案では、原簿の確認、無効審判の証拠集め、先使用権の確保、逆に送り主を攻撃することができる特許のリストアップなどの準備を短期間で行った。
 無効審判の証拠として特許公報のみならず広く競合他社のパンフレットを集め、短期間で業界内の権利関係が机上で整理され、万全な防御態勢が整った。
 以前のコラム(第12回:侵害訴訟における「勝率」の誤った解釈)で書いたが、争いになったときに、送り主側(原告側)の真の勝率は意外と高い。防御は万全を期すのが肝要だ。 通常お手紙には「本書到着後〇日以内に弊職宛に書面にて回答ください。」と記載がある。お返事も同様に期限を設けて連絡を待つため、短期間に事が進む。

縁があってお手紙の送り主と合併する

 さて、この弊社の事案であるが、最初のお返事を出して連絡を待っていたところ、期限になっても連絡はなく、それっきりになった。
実はこの「お手紙」の送り主は、今年2021年に弊社と合併を予定しているクエステルジャパンの前身の会社である。お手紙をやりとりした当時の関係者はクエステルジャパン社内にはいないので、書簡の本意はいまだ不明のままである。
 8年の時を経て、弊社サイバーパテントは、縁があってラブレターの送り主と合併する。おかげ様で弊社は、クエステルジャパンとの合併の節目にあたる今年、会社設立20周年を迎える。
 会社設立10周年の年は東日本大震災、20周年はコロナ禍とあって、対外記念イベントは予定していないが、引き続きお客様の知財業務の「フルサポートパートナー」として事業に邁進する所存である。

Questel CyberPatent
高野誠司