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コラム

第18回 他社特許監視の重要性~年金不納からの権利復活~

 特許出願をして特許審査をクリアし特許査定を得ても、所定の期限内に特許料を納付しなければ特許登録されない。登録後においても、権利を存続させるために特許料を定期的に納めなければならない(いわゆる「年金」)。特許には維持費がかかる。
 年金は段階的に高額になるため、特許の価値が見合わなくなると、途中で納付をやめる、つまり権利維持を諦めることがある。
 年金不納で権利が消滅すれば、当然、第三者に排他権は及ばない。このようなことから、自社事業の障害となっている競合他社の特許については、登録後も定期的な監視が欠かせない。期限内に年金が支払われなければ権利は消滅する。後日追納が認められ権利が復活する場合があるが、追納にも期限があるため(特許法第112条)、年金未納の状態が一定期間経過すれば権利が復活することはない、はずである。
 ところが、特許庁の登録情報などを含む整理標準化データ(特許庁のサービスJ-PlatPatでも使用)において、「年金不納による抹消」とされた特許が後から「本権利は抹消されていない」として復活するケースがある。
 今回のコラムでは、他社特許監視業務において特に注意が必要な権利復活情報に関する調査・考察を行ったので紹介する。

データ上の不備修正と実質的な権利復活がある

 特許庁が毎週発行する整理標準化データのなかに、特許権の生死を判断する上で重要な「本権利抹消識別」コードがある。識別コードが一旦「年金不納による抹消」(コード1)になった後に「本権利は抹消されていない」(コード0)に更新されるケースがある。抹消され死んだはずの権利が復活するのであるから、競合他社にとってはただ事ではない。

表.2019年にデータ上で権利が復活した例(2019年2月20日現在) 表.2019年にデータ上で権利が復活した例(2019年2月20日現在)

 表は、弊社情報サービスのデータ上、2019年に権利が復活した一覧である。特許庁に、表中8件(直近の2月18日の1件除く)の識別コードの変更理由を問い合わせたところ、「2件(2003-171483、2009-548509)は、特許庁のデータ処理に不備があったため正しい情報に修正したものです。他の案件については、特許法112条の2の規定による権利の回復が認められたものになります。」との回答を得た。
 データ上で権利が復活するケースには、データ処理上の不備修正と、追納による実質的な権利回復があることがわかった。

権利復活は実はもっと多数ある

 弊社情報サービスでは、生死情報を提供しており、データ更新のタイムラグなども想定し、判定は安全側に倒している。例えば、年金の納付期間を過ぎて未納であっても直ちに「死」とは判定していない。特許料の追納期間は当然のことながら考慮されている。
 したがって、整理標準化データや特許庁のJ-PlatPatで、既に消滅しているように見える権利が、後から復活するケースは実はもっと多数あるので留意したい。
 多数ある復活ケースのなかで、弊社の判定を覆すに至るものは極僅かであって、それらには特徴がある。過去に覆った「権利者」を観ると4つに分類される。個人、外国企業、産学共同、大手国内企業の群特許である。「個人、外国企業、産学共同」については、相続や特許料減免制度など特殊事情や複雑な手続きを経てデータ処理に不備や遅延が生じたと推察できる。
 一方、「大手国内企業の群特許」として分類されるものは、同時に同じ分野の複数の特許が復活している。例えば、表中の2019年2月4日には同一企業の自転車関連の特許が5件同時に復活している。2018年11月19日には21件も同時に復活した例がある。
 大手国内企業の特許群が復活するケースの大半で権利移転が絡んでいる。追納手続きと相まって、情報更新が想定より遅延したと考えられる。他社特許監視の業務の観点からは、ノーマークの企業でいきなり多数の特許が復活することになり、発見すれば大騒ぎになることが予想される。

NRIサイバーパテントの対応(PR)

 弊社情報サービス「CyberPatent Desk」では、生死情報(◎:権利存続中、◇:未審査・審査中、▼:登録後消滅、■:不登録確定)による検索や、結果一覧に生死情報を表示することが可能である。
 また、特許庁のデータ更新によって、「死」から「生」に復活した出願リストを掲載している。このリストには今回のコラムで話題にしている権利復活のみならず、前回のコラムで話題にした審査請求期間徒過など取下擬制からの回復や、出願却下処分の後に審査情報があるなど、審査復活も掲載している。弊社情報サービスのユーザIDがあれば閲覧できるので確認されたい(ログイン後に、https://s.patent.ne.jp/nri/revive_listにアクセス)。
 知財業務では、信頼のおける事業者が提供する知財管理システムや知財情報サービスを利用することが肝要である。

NRIサイバーパテント株式会社 高野誠司